うみのなみだ

日常+小説ブログです。

あなたの街の物語

kakuyomu.jp

ぎりぎりですけど、「あなたの街の物語」コンテスト - カクヨムに短編を投稿しました。
2400字は短いですね。

物語を書くということ: 「小説の神様」 相沢沙呼 著

 HDDの片隅でバックアップと名づけられたフォルダには、十年以上前に書いたテキストファイルが眠っている。それぞれ、10キロバイトにもみたないサイズのシンプルなデータたち。
 小学生の頃に初めて使ったワープロソフト“一太郎”の独自ファイルが高校を卒業する頃には読み出せなくなった経験から、いまでもワードで書いたファイルの最終版はテキスト形式で保存している。おまじないみたいなものだ。その冗長な用心深さのおかげで、.txtアイコンをダブルクリックするだけで、十年以上前の一月十八日深夜に書き終わった物語が目の前に現れる。これがデジタル化の恩恵だとして、幸せなのかどうかは微妙なところだ。忘れてしまいたかったことさえも、瞬時に目の前に突きつけられてしまうのだから。
 データは、簡潔で、風化すらせずに、ありのままにそこにある。十年前の手紙を引き出しの奥から見つけるのと、手続きは似てはいるのに、手触りはずいぶんと違う。

 恥ずかしいのかもしれない。
 でも、同時にすこしだけ、誇らしくもある。

 小学生の頃に始めた文字を巡る遊びを、どうにかこうにか、ずっと続けてきたこと。

 断絶はあった。絶望もあった。
 俯瞰してしまえば、社会的に何か結果らしいものを残した記憶はなく、すぐ傍らにさえ輝かしい才能はありふれていて、時に眩しく眼を焼いた。

 けれどそれに変わる喜びがあって、楽しさがあった。
 小さな掌編に賞をいただいたり、知人に褒めてもらったり、見知らぬ誰かから短い感想を受け取ったり。それだけで十分すぎるほどに、続けることを選んでこれた。

 それに、なによりも。
 物語を作り、文字に練り上げるそのひと時は、楽しかった。創造を形にする作業は、地道でままならず、けれどとびきり自由な瞬間だから。

 真っ白な空白に文字をつめて世界を作る。

 見つけた物語が、少しでも誰かに伝わったらいいなと願いをこめて。



 そういう気持ちを思い出させてくれる、素敵な物語でした。


小説の神様 (講談社タイガ)

小説の神様 (講談社タイガ)

カクヨム更新

kakuyomu.jp

過去の短編小説を加筆修正してカクヨムにあげることにしました。いろいろごちゃまぜですが、まあ、足跡とおもって。元原稿はこのブログのどっかにあります。

50作もあるとは思わなかったので、短編ばっかりよく書いたな~という感じ。

だいたい5~10年前のものですが、文字は腐らないとはいえ、拙すぎて色々と書き直したり、かと思えば今の自分じゃ出てこない表現もあったりして、リライトも楽しいです。

 

もっとたくさん書いただろうツイノベもどこかにまとめておきたいのだけれど、ここにするか、リライトしてカクヨムにあげるか、まだ考え中です。

 

長いものの連載もそのうちできたら良いのですが。そのうちに。

140字の物語展 2012 〜ついのべ豆本♪部 二周年記念〜

 おしきりゆうさんにお誘いいただいてついのべ豆本部の展示会に作品集をおかせてもらいます。


 豆本という手仕事と、ネットから生まれたついのべのコラボレーションは相性抜群です。是非お立ち寄りください。
 月箱さんのギャラリーには他にも手仕事アーティストさんの可愛い作品がいっぱいです。

 ツイッター小説と文学フリマ

第14回 文学フリマあわせで、ツイッター小説の作品集を作ってもらいました。

終わってから告知も何なんですが、今後も南洋文芸通信社さんで販売していただくので、機会が有れば是非ご覧ください。
(夏コミ、第15回文学フリマに参加予定とのことです)


2009年の最初の作品から、2012年までに書いた約100作品からの抜粋です。
変形版で、140文字の作品に相応しい装丁となってます。


ツイッターというwebベースで生まれた物が、紙の冊子になって、実在を得たような妙な感慨を得ました。
にやにやと眺めております。


久しぶりに参加した文学フリマでは、冊子体コンテンツのweb、pdfデータベースの販売形式が「新しさ」とともに広がりつつあったので、まさに逆を行く感じです。
でも「即売会」の良さというのは「現場」で制作者の「手」を介して「作品」を受け渡すことだと思うのです。
なので、webの気軽さを離れて、実在を得た作品は、決して保守的なわけでも、懐古的なわけでもなく、ある種の制限的表現であって「ロック」なのだと思います。


ともあれ、作品の編集・作成・販売を行っていただいた南洋文芸通信のみなさまに感謝いたします。
ありがとうございました。

文学のすこやかな反骨精神が、ますます発展していきますように。

 君には嘘がないから、僕には追いつけない #4

「高山さま、申し訳ありません」

 ごくさりげない減速で、車は停車した。「どうした」笑顔を見せた後、急に黙り込んでしまっていた彼女が剣呑に問う。

「はい、先に高山さまをお送りするつもりでしたが、誤って本家へ回ってしまいました」

 痛恨の極みと言わんばかりの真剣さで、彼は振り向いて頭を垂れた。

 身を屈めて窓の外を伺うと、趣きのあるレンガ造りの壁が見えた。目線を前方へ巡らすと、ずっと彼方に門らしきものが見える。こっそりと後ろを確認すると、その先にも壁が。およそ個人宅とは思えぬ規模の敷地面積が、その一枚の壁で切り取られている。

 何だこの壁は。

 再びの非日常に、くらくらと眩暈がする。僕はやはりとんでもないカードを切ってしまったのではないか。分不相応、という言葉がずっしりとのしかかってくる。

 そういえば学校から、どれ位離れたっけ。せめて現在位置の確認をと、記憶をたどり始める。しかし、車内に訪れた沈黙のなか、ひたすら切り出すべき言葉を探してフル活動していた僕の頭に、道すがらの情景などまったく記憶が無い。ひたすら、膝の上に置いた手をじっと見続ける映像が続く。それが、どれだけの時間だったのかすら、危うい。

 これはもしや、時空間がゆがんでいる、ということか。大変な事態だ。妙に冷静になった頭をふって、僕はため息を一つついた。

「高山様、誠に申し訳ありません」

「え、いや、そういう意味じゃないです。全然気にしないでください」

 こちらにも頭を下げる相羽に、慌てて場を取り繕う。

「まったく。君らしくないな。高山宗佑、遠回りになってしまい申し訳ない。すぐに車を回そう。相羽、出せ」

「え、いや。あの、」まずい、このままでは再び針のむしろの沈黙が待っている。

「僕は良いですから、朝生先輩、その、どうぞ先に帰宅、されてください」

 先に帰ってくれ、という表現を敬語にするという難問につっかえながら、僕は言った。

「そうは行かない、此方が君を招いたのだ、君を先に送り届けるのが筋というもの」

 ずいっと視線を寄せていう先輩には威厳と有無を言わせぬ迫力がある。だが、このまま再び沈黙の時間に曝されるのは遠慮したい。

「いえ、僕が急に待ってたっていうか、ですし。それに、女の子に送ってもらう訳には」

 しどろもどろに弁解する僕を置いて、彼女はハッと何かを悟ったように赤面し、小さくため息をついた。

「そうか。やはり君は」とそこで言葉を句切り、その先を考えあぐねるように視線をそっとそらす。何を言いかけたのか凄く気になる。僕がへたれた一般庶民であることを見抜いてしまったのか。なんて問いただすことなんかもちろんできない。

「解った。では先に降りるとしよう。相羽、失礼の無いようにな」

「はい、お嬢様。では玄関までお連れいたします。高山様、ご無礼をお許し頂きありがとうございます。今しばらくお待ちください」

 再び静かに車は動きだし、長く続くレンガ壁の先に見えていた門前へと近づいていく。ピピッと軽い電子音が響き、まるで自動ドアのように、鉄門がすべらかに開いていく。その先には、緑輝く樹木たち。そして、やはりというか、洋館としか言いようのない邸宅が姿を現す。

 ただでさえ高止まりしていた心拍数が、やけにはっきりと聞こえる。

 はやまったかもしれない。僕が彼女に近づこうなんて。

「では、先に失礼する」静かに、彼女は鞄を持ってドアを開けた。さすがにドアを開ける係が現れなかったことにほっとしながら、僕は「あ、」と間抜けな声を出した。

「ごきげんよう、先輩」

 さようなら、の丁寧版はこれだろう、と自信を持って口にした挨拶に、朝生先輩は振り返り、なぜか笑った。

「また明日。高山くん」ふわりと笑った顔のまま、彼女はそっと言い、素早くけれど静かに、ドアを閉めた。

「出発いたします」相羽がアクセルを踏み込む。

 去り際の笑顔に再び射貫かれた僕は、ぼんやりと遠ざかる彼女の姿を視線で追った。僕が打った博打には確かに価値がある。あの笑顔を見られただけで、僕には過ぎた幸せだ。

 門を出て、車は滑らかに進路をとる。

「あ、あの。ウチの場所って」何も知らせていないことに気づき、僕は身を乗り出してハンドルを取る相羽に話しかけた。

「ご心配なく。存じ上げております」

 柔らかに、けれどもぴしゃりと鞭を打つような芯の強い声で相羽が答えた。

「失礼ながら、昨年から、許嫁である高山さまの動向は勝ってながら私が把握させていただいておりました」

 さらり、と軽やかに言う、その内容は、つまり。

「この場を借りて、不躾な行動をお詫びいたします。しかし、お嬢様の許嫁であるお方について、僭越ながらまずはわたくしの眼にて確かめさせていただきました」

 どうどうたるストーキング行為の告白に、僕の頬は苦笑いを作ることもできない硬直を起こしていた。昨年から、僕を観察していたということは。つまり、僕がどのように取り柄のない、小物であるかということも、筒抜けであるに違いがない。あの邸宅に勤め、あのお嬢様に従う御方の眼において、僕がお眼鏡にかなうはずが無い。

「率直に申し上げて、旦那様から高山さまをご紹介いただいたときは、はばかりながら甘言も辞さないつもりでおりました」

 と、相羽は柔らかに続けながら、ハンドルを切った。先ほどまでみじんも感じることのなかったGが全身をぐらりと揺らす。

 絶対に怒ってる。

 バックミラーには軽くほほえんだままの表情が垣間見えるが、その内心が透けて見える。

「えっと、その、ごめんなさい」

 でも僕だって、なぜ僕が許嫁に選ばれたのか解らないんです、と釈明しようと、僕は相羽を見た。

「そうです」

 大通りに出た車体の速度をぐっとあげながら、相羽は言葉を続ける。

「その謙虚さ、潔さ。わたくしは高山さまの生き様を垣間見させていただくなかで、自分の浅薄さに気づかされました。あなた様はたしかに、朝生家当主に足りないものをお持ちです。そのことを、先日あらためてお嬢様にはご報告させていただきました」

 ええええ。期待していた言葉と真逆の賛辞の登場にまさかと耳を疑う。

 相羽さんはいったい僕の何を見ていたというのか。あの主人にしてこの従者。再びハンドルを切るGに耐えながら、その言葉の裏にあるものを、僕ははかりかねていた。

 

[小説] 君には嘘がないから、僕には追いつけない #3

3.小心者のやり方

「あ、あの。朝生先輩!」

 始業式が終わり、僕は上級生のHRが終わるのを正門前の木陰で待っていた。朝生百合薇は大勢の上級生とともに、けれどその他大勢とは隔絶した存在感を持って現れた。作戦通り、呼び止めようと声を出した僕は、どこからともなく現れた女生徒の群れに行く手を阻まれた。

「ゆら様、お久しぶりです! 新学期もよろしくお願いします!」

「ゆら様!」

 声援を口々に集まる彼女たちの制服には百合と薔薇をあしらった揃いのピンバッチ。

 あの生徒会長への声援を思えば、それを上回るファンを彼女についていることは想像しがたいことではなかった。しかし、作戦の出鼻をくじかれて僕のささやかな勇気は風前の灯火だった。やっぱり、身に過ぎた夢だったんだ、

「高山さま。どうぞこちらへ」

 女生徒に囲まれ、次々と新学期の挨拶を受けている姿を前に、よろよろと正門を出た僕の肩を、誰かが引いた。

「え」と振り返る僕の動きを予測したように足が払われ、重心を見失った体がぐにゃりと傾いた。

「失礼します」

 姿勢制御を無くした僕の体を声の主は軽々と受け止め、抱え上げるとそのまま駆けだした。

「え」と口を開いたままの僕の視界の先には上等な黒のスーツ。それから甘い、薔薇の匂い。

 角を曲がる感覚がした直後、僕の体は革張りの座席に着地した。

「手荒なまねをして申し訳ありません。しかし人目を忍ぶ必要があると思いましたので。申し遅れましたが、わたくしは百合薇お嬢様の運転手を務めております、相羽と申します」

 運転席についた男は、シート越しに振り返ると座席に倒れ込む僕に頭を垂れた。僕を抱えて走ったとは思えない、細身の優男の風情に、物腰の柔らかな笑顔。しかし、軽々と僕を拉致した手際はただ者ではない。

 ことの展開について行けない僕を、よそに、再びドアが開く。

「高山宗佑ではないか」

 乗り込んできたのは、朝生百合薇、その人だった。

「お帰りなさいませ、お嬢様。高山様がお待ちでしたので、お連れいたしました」

「そうか。ご苦労だったな、相羽」

 僕の横に滑り込んできた朝生百合薇の鞄を相羽がとり、助手席に置く。ドアが閉まる。そして、相羽が車を出した。

「高山さま、よろしければお送りします」

「あ、はい」ようやく姿勢を正した僕は相羽の言葉に曖昧に笑った。そもそも僕はなぜここにいるのか。

「高山宗佑。私は今朝、君との婚約は事実無根であると確認したと思ったが。どういう用件か」

 思い出せ、と自分の計画を反芻して、僕はその稚拙さに戦慄した。この状況で、どうする。ターゲットを目の前にしてはいるが、戦況は確実に不利だ。

「い、いえ。その。朝生先輩、じつはですね」

「お嬢様、挨拶もせずにそのような事を仰ったのですか」

 答えに困る僕をよそに、相羽が声を挟む。

「なんだ相羽。自分の許嫁に、挨拶も何も無かろう」

「お嬢様。確かにお嬢様にはこの一年、高山様のことを仔細に報告して参りましたが、あくまでも対面なさるのは初めてなのですから。礼節をふまえた手順を踏まねばなりません」

「そうか。それもそうだな。つい既知になったつもりになっていた」

 ふむ、と考え込んで、朝生百合薇はこちらをみた。

「失礼をしてすまない、高山。私としてもすっかり動転していた」

 謝罪の礼をとる先輩に、頭を振って僕は答える。

「あ、いや。いいんです。僕も突然だったので」

 そう。突然だったので。

 僕はその言葉で、自分が何をしようとしていたのかを思い出した。

 ポケットを探り、メモをつかみ出す。

 葵会長が祝辞を送る際に持っていた原稿用紙、それをまねて僕は自分の作戦を箇条書きにしてきていた。この通りに事を進めれば、僕の夢が、かなう。

 はずだ。

「えっと。それでそのことなんですが」

 メモを広げて、僕は朝生百合薇に対峙した。

「なんだ。

 そうか、君、恋文を渡しにきたのか」

 息を整えた僕をよそに、急に頬を染めて朝生先輩は僕のメモを手に取った。

「ちがっ」と手を遮る僕から軽々とメモを取り上げて、朝生百合薇は僕の作戦を読み上げた。

「朝は突然で否定してしまった。周囲の目があるので、許嫁としての行動は慎んで欲しい。婚約に向けてお互いのことをゆっくり知り合うのが良い」

「もっともです。高山様」

 なぜか相羽が賛同する。

「そうだな。私も少し急いていた。まだお互い、言葉を交わすのも初めてなのだからな」

 ちら、と頬を染めて朝生先輩がこちらをみる。いったい、朝の毅然とした態度はどこへ行ったのか。

「私も気恥ずかしくてな。つい強硬なものいいになってしまった。高山宗佑。許嫁であるからには、お互い、これからのことを考えていかねばな」

「こ、婚約は、まだ、ですよね」

「そ、そうだ! 婚約には、私にも心の準備が必要だ。もちろん、相羽の報告から、君が決して悪人でないことは解っている。けれど私もひとりの女。嫁ぐからには愛情を持って家庭を気づきたい。それには、やはり、君をもっと知る必要があると思うのだ。だから、今朝は婚約がまだだと知って先走ってしまった」

 そういって、先輩はもじもじと、俯いた。なんだか学校で見かけた姿とは別人のようだ。

「ですから、もっと人前で素直になされればよいのに」

 相羽がため息混じりに言う。

「小言を言うな、相羽。私だって堂々と我を晒すことができればと思う。しかし、小心者ゆえにな。なかなか上手く振る舞えないのだ」

 いやあ、そんなこと無いと思うけどな。

 本当の小心者っていうのは、僕のような小物のことを言うのであって。

「ええ。高山様との交際で、もっとご自分を出すことを学ばねばなりませんね」

「そうだな。高山、今後ともよろしく頼む。いや、違うな。

 わたしは、君と。きみと、」

 と、考え込んで、朝生先輩は言った「親しく過ごさせてほしい」

「は、はい。よろしくお願いします」

 どうしてそうなるのか全く解らないながら、希望道理の展開に、僕は頷くしかなかった。

 彼女は嬉しそうに、僕に向けて笑った。

 すごく、可愛かった。