うみのなみだ

日常+小説ブログです。

届くなら

 指先から水平に放たれた小石は川の水面に二つの跡を残してぽちゃりと消えた。
「やっぱり二つ止まりだ」
 ちっとも悔しくないように彼は呟いた。
 夕暮れの空気を切り裂くように高架線を電車が走り抜けていった。オレンジ色の光の中で、彼の広い背中を覆う黒い制服はいつもより柔らかく目に映る。
「なあ、結局はさ、俺達もそういうもんだろう」
 区切るように彼は呟いた。
「どういうこと?」
 少し悲しげで、寂しげな背中の後から私は聞き返した。
「どんなに頑張ったって届かないってこと」
 振り返って、彼は儚い笑顔を向けた。精一杯、強がって見せようとしたのかもしれない。さっぱりとした口調だった。
「一緒にいたいって思うし、ずっと大事にしたいって思うけど、どうしようもないだろ。卒業して、別の学校に通って、新しい友達が出来て」
「そんなの解らないじゃない。やってみなきゃ」
 彼はまた、足下から小石を一つつまみ上げて川に向き直った。
 無言のまま、再び水面に向かって腕を振る。石は、一度も跳ねることなく流れの中にかき消えた。
「いくじなし」
 聞こえないように口の中で呟いた。
 そんなふうに自信がないのなら終わりにすればいいのに。
 私ならそんな風に不安になんかさせないのに。
 でも、どんなに頑張ったって届かないって、知っている。
「大丈夫だよ、心配しなくても二人なら何とかなるって」
 出来るだけ力強く言った言葉に、彼は振り返ってはにかむような笑顔を見せた。オレンジ色の光に照らされたその姿は、私の目にゆっくりと刻みつけられていった。
「今できなくたって、きっと届くよ」
 空々しい言葉を私は絞り出した。