うみのなみだ

日常+小説ブログです。

 3.大丈夫か?

 僕たちは同じ日に生を受けて、一番近いお互いのことをずっと見てきた。
 二十五年の歳月を、ずっと二人で歩いてきた。いつだって、君が手を伸ばせば僕が握り返した。僕がそっと肩震わせるときは君がやさしく抱きしめてくれた。
 今、僕は病院の消毒液の匂いに満ちた廊下のベンチに腰掛けて、扉の向こうから看護婦が知らせの声とともに現れるのを待っている。
 腕時計の秒針がカチカチとゆっくり時間を刻んでいく。握り締めた拳を見つめると鮮やか一つの映像が浮かび上がった。
 小さいころ住んでいた町の、川原の景色。夕暮れに赤く染められた背の高い草たちに埋もれて、僕たちは東の空できらきらと輝いた一番星の光を見つめていた。
 二人で同じ物を見ていたあのころ。
 いつからか少しずつ僕らの距離は開いていったけれど、それでも僕は君の事を見ていた。君も僕のことを思ってくれていた。
 今日君は新しい命を産む。
 たった一人で母親になることを、君は笑顔で決めてしまった。
 いつの間にか強くなったその笑顔に、僕は少しだけ傷ついた。
 僕たちはどんどん違いを増していったけれど、忘れることなんか無い。
 大丈夫か?
 君が手を伸ばせば僕が握り返す。
 いつだって、誰が反対したって、心配することなんか無い。 
 どんなに月日が流れても、僕たちの絆は変わらない。

 今、僕はいつものように君の事を待っている。