うみのなみだ

日常+小説ブログです。

 re:悪癖((文章力向上委員会 6月作品 [http://web-box.jp/bki/200406/004.html:title=「悪癖」 梁瀬陽子]))

 私にとって、恋とは癖のようなものだった。気がつくと“次の”男が現れ、いつのまにか私たちは恋人になっていた。
 いつの間にか知り合って、何気なく電話をして、気がつくと食事をして、とりあえずメールを送って。それから、好きだとささやき合って、キスをして、セックス。爪をかむ癖のように身軽にさりげなく、恋物語は進む。
 人生で一番大事なことが恋愛であるとか、独りきりの自分には耐え切れないだとか、そういうポリシーがあるわけじゃない。ただ、恋は私が気づくよりも先に始まり、気がついたときにはいつも終わっていた。
 私のことを嫌な女だと揶揄する女たちは、山ほどいた。自分でも、なんて調子のいい女だろうと呆れることがある。しかし無自覚な癖をどうしたら変えることができるのだろう。自分の手に余る悪癖に、私は怒りすら感じていた。
「結局、自分のことしか見てないんだよな、お前は。」
 “前の”男が別れ際に残した言葉は、何度も私の中でリフレインしている。そうかもしれない、と私は考える。でも、いつまでたってもその言葉に共感はできなかった。
 右から左へ抜けるように、去っていった彼への思いは私の中からこぼれていった。自分がなんで恋をするのか、もう解らなかった。混乱の中で、気がつくと私は“次の”恋人と一緒にいた。
 悪い癖は治りそうに無かった。それでも、私に先回りする恋は安らぎと優しさを私に用意してくれる。無防備なまま、私は柔らかに幸福に包まれていた。
 調子のいい女。私は静かに息を吐いた。考えれば考えるほど、自分のずるさが目についた。
 テーブルの上の小箱を手に取り、もう一度押し開けた。布地に埋もれた小さな、永遠の輝き。贈られたばかりの銀色のリングを私はじっと見つめた。
 結婚したい。
 切実な感情の高まりが胸を痛める。今の彼を私は確かに愛していた。だけど、どんなに記憶をたぐってもどうして彼なのか、どうして好きになったのか、私は見つけることができない。
 悲しさと悔しさが湧き上がる。誠実でありたいと願えば願うほど、私は不誠実になっていった。気にする事じゃない、とささやく声が聞こえる。重要なのは今この気持ち、彼と結婚したいという、未来へと向かう思いで、過去の事なんか、こだわること無いわ。
 調子のいい女。私は自分を心から呪った。だけどいまさら、どうしたらいいのだろう。もう一度最初からやり直すなんて、不可能なのに。
 先を歩いていたはずの恋は、私の手をすり抜けて、笑っている。誰も応えてくれない悲しみに、静かに涙が伝った。