うみのなみだ

日常+小説ブログです。

 ワキワキ効果

 もう春になるんじゃないかと思わせておいて、また雪が降った。積雪五センチ。全くたいしたことじゃないのに、急に出かけるのが面倒になってしまう。それでも冷蔵庫のなかを補充するため、しかたなく俺は外に出た。寒い。みんな出かけたくないのは一緒なのか、町はしん、と静まり返っている。
 マフラーの中に首をうずめるようにしてスーパーを目指す。さくさくと雪を踏む足音がおもしろい。それでも寒い。
「ワキワキ」
 路地の坂を下ったところでそう聞こえた。もうすこし正確に表現するならニュワキィニョワキィ、と聞こえた。
 振り返ると、ウサギと猫とペンギンの子供が混ざったような、ぶわん、としたシルエットの動物がいた。とりあえず、白くてふわふわしている。
「ワキワキ」ともう一度、動物は鳴いた。
 びっくりして振り返った姿勢のまま硬直する。幻覚かと思ったが、ワキワキ(しょうがないのでそう呼ぶ)は俺に近づいてきた。思わず身構えた俺の右足にすすり、と身を寄せて甘えたしぐさをする。猫っぽい。珍種の猫なのかと納得して撫でてやる。しかし明らかに猫にはない手触りを感じて、再び驚く。でもかわいい。どっちかっていうと鳥の羽みたいにふわふわとしている。そういう猫もいるかと、考えてみるがよくわからない。世界にいったいどれくらいの猫種がいるのか、全然知らなかった。
「わきわき」と呟いてみた。でもワキワキには伝わっていないようだった。にゅわきぃ、にょわきぃ、と口を動かしてみるが、ワキワキは撫でられるのに夢中で、振り向いてもくれない。
 これ、捕獲したらニュースになるかなあ。
 あまりにも撫でられまくりなワキワキについそう思う。すると、思いつきは見透かしてますよ、とばかりにワキワキは離れていった。走っているのに猫よりだいぶのろい。追いつきそうだったがそのまま見送る。ワキワキは坂を駆け上がると振り向いてもう一度鳴いた。今度はワキュイワキィと聞こえる。良く解らない。
 ごうっと向かい風が吹いて、一瞬眼をつぶった。眼を開けるとワキワキは消えていた。ありがちな退出方法に感心し、おもわず坂を上ってワキワキ消失地点を確認する。パターンからすると撫でてくれたお礼に何か置いていくのではないか。そう思ってしばらく雪の中を探してみたが、何も見つからなかった。
 やっぱり珍種の猫なんだろう。そう結論付けて、スーパーに向かいなおす。
 しかしちょっと期待して、パチンコ屋に寄った。千円が五千円に成り、おっと思って注ぎ込んだら、六千円負けた。そう上手くいくわけ無かった。
 それでもどこかに、ワキワキの効能がある気がして、若干そわそわとスーパーに向かった。